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十字架の道行


『主とともに』~十字架の道行と黙想~
(カルメル会奥村一郎神父著)
四国カトリック会館地階にあるレリーフ

初めの祈り


“生きることは愛すること 
愛することは死ぬこと”

ただこのひと言のあかしに 
すべてを賭けられた主イエスよ!
あなたたとともに生きるとは,
あなたの愛ゆえに 
あなたとともに葬られることであり,
その死によって 
神の命によみがえる秘義であることを 
今,さらに深く悟らせてください。


第1留 イエス 死刑の宣告をうける


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


「十字架につけよ!」「十字架につけよ!」
嘲笑と罵言(ばげん) 
憎悪のうずまく法廷に 
イエスは黙して立つ。

沈黙

「父よ,彼らをゆるしてください。
彼らは何をしているかを知らないからです。」
日々神殿で 
イエスより心の糧を恵まれ,
飢えたときには 
パンを与えられた人々。
しゅろを手に 
歓呼の声をあげ,
地に上着を敷いて 
イエスを迎えたエルサレムの人々。
その人々が今,
「イエスを十字架につけよ」と 
叫びつづけている。
手のひらをかえすように 
昨日を忘れて今日をのろう人々。
いったいそんなことがあってよいのだろうか。
ありうることなのだろうか。
驚いてはならない。
わたし自身そのような,
否,それ以上の冷酷な裏切りを 
神に対し,人に対して 
何度も繰り返してきたことに,
今にしてなお 
気づかずにいるのではなかろうか。
そのことを思えば,
たとい人からそのようにされるとしても 
怒ってはならない。
ただ黙して祈る心を,
そして自らを省みる謙虚を 
主よ,お与えください。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第2留 イエス 十字架を担わされる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


だれが負うべき十字架なのか。
人間の狂気は 
いったいどこまで行くのだろう。
主はひと言も発せず 
十字架をうけとられる。

沈黙

「きつねには穴があり 
鳥にはねぐらがある。
しかし人の子には枕(まくら)するところがない」
と言われた主イエスよ,
あなたに残された 
枕するところ,
それはただ 
死の十字架だけだったのだろうか。
死だけがあなたの 
憩いの場所であったのだろうか。
愛することは死ぬこと,
勝つことではなく負けること,
あなたのために 
日々十字架を担うこと。
主よ,いつも自分を守り,
子細なことにも人に譲ろうとせず,
「勝他(しょうた)」の心にせきたてられて 
生きることも死ぬこともできずに苦しむわたしに,
死ぬことを教えてください。
自我に死ななければ 
不死身の愛によみがえられないことを。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第3留 イエス はじめて倒れる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


強さを誇る神ではない。
人間の弱さをあわれむだけの神でもない。
弱さそのものにうちひしがれる神が,
あらあらしい怒号と罵声に襲われて 
今ここに,
わたしの足下に倒れる。

沈黙

イエス,わたしには 
あなたの強さではなく弱さが,
限りないまでの弱さが 
必要なのです。
ののしられても,そしらず,
倒されても逆らわず,
殺されても恨まない 
愛の痛々しい弱さが,
地獄の死もうち勝つことのできない 
あなたの愛ゆえの弱さが 
必要なのです。
人に負けまいとあがき,
常に顔をもたげるわたしの傲慢を 
あなたの弱さに 
よって辱めてください。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第4留 イエス み母に会われる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


愛とはこんなにも 
痛ましいものだろうか。
沈黙,ただそれだけが,そのとき,
二人を包む。
最大のことばであったにちがいない。

沈黙

み母マリア,
あなたの生きる道とは 
幼子イエスと,
あなたに投げられたシメオンの謎の預言に示される
「あなたの胸は槍にて貫かれ,
この子は,逆らいのしるしとして 
立てられるであろう。」
キリストを生きる 
まことの女性とは,
今もやはり 
あなたと同じ運命を生きる 
もう一人のマリアでなくてはならない。
饒舌ではなく沈黙,
嫉妬ではなく寛容,
女々しさではなく雄々しさ,
人間の救いのための 
真珠よりも尊いその女性が,
み母マリアよ,
あなたの愛によって 
生み出され,はぐくまれ,全うされますように。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第5留 イエス,クレネのシモンの助力をうける


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


シモンはすすんで 
イエスの十字架をとったのではないようだ。
しかし,それでもよい。
だが,それにしても,
“よきサマリア人”の話は,
やはりたとえ話であったのだろうか。
この世にはありえないものへの 
イエスの愛だったのだろうか。

沈黙

「わたしは見まわした。 しかし,だれ一人 
わたしを助けてくれるものはなかった。」
よきときには友は多い,悪いときはいちはやく遠ざかる。
弟子たちはどこに行ったのだろう。
ペトロさえ,姿を見せない。
行きがかりのシモンだけが 
わずかにその力づけとさせられる。
「命を賭してもあなたに従う」
と言うことは易しい。
ことばとは,なんと力のないものだろう。
ペトロでさえもそうである,
ここに今ひざまずくわたしが 
けっしてあなたから離れずにいることができるだろうか。
ことばをむなしくする愛の力,
それが,
わめきたてる群衆のさなか,
わたしの心の騒がしさの中にも 
根強く隠れているならば……!

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第6留 イエス,ヴェロニカより布をうけとる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


聖書に記されていない,
しかし,信じないには 
あまりにも美しいヴェロニカの話は,
愛とはなんであるかを教えてくれる。

沈黙

愛のためだけの愛,
そこには,よしどれほど小さな行いにも 
夜露に宿る月のように 
イエスの清らかな面影がある。
愛以外に何もないところ,
そこには澄みきった永遠の光 
それだけがみなぎっている。
その清らかな美しさが 
この地上のどろ沼に隠されている秘義を,
ヴェロニカはかいま見たにちがいない。
そして,それは今ここにも 
見いだされなくてはならない愛の現実である。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第7留 イエス 再び倒れる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


「再び」と,あまりにも軽く 
わたしの口からことばが流れ出る。
逆流する血に目がくらんで倒れるイエス,
あなたのこの苦しみを前にして 
わたしは何を言おうとするのか。

沈黙

遠い 
はるかに遠い事実のように,
わたしは,このことを見ているのではないだろうか。
今わたしの前にあるこの小さな絵と十字架,
それに誘われる貧しい想像のみに,
この恐るべき事実を薄めてしまっているのではなかろうか。
ここではただ足を止め,ひざまずいて,そこにいよう。
それだけ,
それ以外のことは何になろう。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第8留 イエス,エルサレムの女性らを慰める


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


泣くことを知る,
それはただ 
涙を流すだけのことではない。
砕かれた魂の廃虚に 
神の愛の芽生えが 
ひそかに調えられることである。

沈黙

人のために泣く,
それはときに美しい同情でもあろう。
しかし,そこには 
自分に酔う心が,
ときに 
足の裏を汚している。
ほんとうに泣くことを知らない 
わたしたちにこそ涙すべきである。
「生木すらこのようである,
まして枯れ木はどのようになるであろう。
むしろ,あなたがたと,あなたがたの子らのために泣け。」
真底から泣くことを知らないわたしたちは,
真底から喜ぶことを知らない。
生きることに虚しさをおぼえるのは,
そのためである。
主よ,まことの涙を与えてください,
泣く者とともに泣く涙を。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第9留 イエス 三度倒れる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


またも倒れるイエス 
泣く者を慰めながら 
ここに,今,三度。

沈黙

生きること,死ぬこと,
それはただ人間の運命というのではない。
愛する者のために 
自らを与える決断をするとき,
そのときはじめて,わたしたちは 
「生き,かつ死ぬ」と言える。
パウロは言う 
「わたしにとって,生きるも死ぬもキリストのもの」と。
わたしの生,それは死にゆくもの。
キリストの生,それは死によってよみがえるもの。
主よ,自らをすて,あなたに生きる力を与えてください。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第10留 イエス 衣をはがれる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


イエス,あなたの道は,
自らをすてることと 
人にすてられること 
いっさいを失うこと。
命までも 
愛のために,愛によって。

沈黙

イエス,あなたは今裸で 
憎しみのたけり狂うさなか 
ただ黙して立つ,
十字架の恥辱にさらされるために。
わたしはどうして 
些細な人のうわさや批判 
思いのままにならぬことがあれば,
すぐに心乱れ,固く自分を閉じ,
罪なき人たちに当たり散らすのか。
聖なる愛の孤独の厳しさが,
わたしにはわからないでいる。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第11留 イエス 十字架にくぎ付けにされる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


両の手首,両足に 
打ち込まれる太い鉄くぎの音,
金づちを振りかざす兵士,
振り下ろす度にくぎが肉にくいこみ,
鮮血を吹き上げる。

沈黙

人類は狂っている 
戦争,ぎまん,虚栄,欲望,
この罪のなくならないかぎり 
神の子は今日も 
わたしたちのために苦しみつづける。
あの日あのときの恐るべき受難は,
ひとときの信心の涙を誘うだけのものでよいだろうか。
主よ,来てください。
わたしにはあなたが不在なのです。
いいえ,不在にしているのです。
あなたの苦しみを 
今日もむなしくしているのです。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第12留 イエス 十字架に死す


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


「わたしの神,わたしの神,
どうしてわたしを見すてられたのか。」

沈黙

神が神に訴える謎の苦悶,
そこには神と人間の神秘 
愛と死,罪とゆるしの,理解を絶した現実が 
実存の深淵をつくる。

沈黙

たたかれても,砕かれても,
「神よ」と言わぬ強情さは 
力ある人間の誇りなのだろうか。
それとも 
心の奥深くひそむ底知れぬ不安を 
まともに見つめようとしない人間の 
虚勢なのだろうか。
ともあれ 
神にすてられた神の子の叫び,
これは人間が 
惨めなまでに愛することを知らなくては 
けっしてわからぬ苦悩である。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第13留 イエス 十字架より下ろされる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


神は死んだ。

沈黙

「おまえが神の子なら十字架を下りよ」とののしる者の前に 
奇跡はなされなかった。
死に勝つために 
神は死をうけとったのである。

沈黙

「死とは何か」 
いっさいを圧しつぶす虚無の暗黒。
いったい,それ以上のことを 
だれが言えるのか。
宗教がこの死の暗黒から 
人間を救い出すというのか。
そうではない。
宗教でもなければ 
思想でもない,
祈りですらない。
人間がなすことのできるいっさいは 
死の前に無力なのだ。
救いうるものは,ただ神,
“死ぬことのできる神,現に死んだ神”だけである。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第14留 イエス 墓に葬られる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


すべては終わった。
しかし,
その死の夜の浄暗はすでに 
これからすべてが始まろうとする 
新しい生命の胎動を感じとっていた。

沈黙

「だれがキリストの愛からわたしたちを離れさせるのか。
艱難か,苦悩か,迫害か,飢えか,裸か,危険か,剣か。
わたしたちを愛してくださったかたによって,
わたしたちは,これらすべてにおいて勝ちえてあまりがある。
わたしは確信する。
死も生も,天使も支配者も,現在のものも将来のものも,高いものも,
深いものも,力あるものも,その他どんな被造物も,
わたしたちの主キリスト・イエスにおける神の愛から,
わたしたちを引き離すことはできない。」

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



第15留 イエス よみがえる


キリストよ,あなたは尊い十字架と栄えある復活によってわたしたちを救ってくださいました。
  あなたとともに葬られ、あなたとともによみがえらせてください。


まことにわたしは言う。
「今あなたがたは泣き悲しみ 
この世は喜んでいる。
しかし,その悲しみは 
喜びに変わるだろう。
女は子を産むとき苦しむ,
自分のときが来たからである。
しかし,その子を産んでからは 
もう痛みをおぼえない。
この世に新しい生命が 
生まれ出たことを喜ぶからである。
あなたがたの喜びは,
そのとき,もうだれにも奪われることはない。」

沈黙

主よ,エマオの弟子たちのように 
わたしの心はみことばを信ずるになんと鈍く,
愛を知ることにいかにおそいことか。
あなたの愛の炎によって 
わたしの醜さを焼き滅ぼしてください。
わたしのすべてが 
あなたのうちに,あなたによって 
御父のものとなりますように。

沈黙

イエスの愛のみが,
  すべてにおいてすべてとなりますように。

み母マリアよ,
  槍で貫かれたあなたの胸の痛みを,わたしの心に深くしみとおらせてください。



終わりの祈り


この十字架の道行は終わった。
しかし,魂の道行は,
来るべき日まで 
愛を生きる道 
死を生きる道を,
日々新たに 
たどっていかなければならない。

「死のとげは今いずこにある,
死は勝利にのみこまれたのである。」
「キリストが復活しなかったら われわれの信仰はむなしく,
われわれはなお 
罪のうちにとどまっていたであろう。」

「主の祈り」
「アヴェ・マリアの祈り」
「ヨセフの祈り」
 聖なるイエスの父ヨセフ,いと清きマリアの夫ヨセフ,
   今もいつも,わたしたちのために祈って下さい。

「天使の祈り」
 聖ミカエル,守護の天使,諸聖人,
   今もいつも,私たちを守り,わたしたちのために祈って下さい。

「イエスの祈り」
 イエスの愛のみが,
   すべてにおいてすべてとなりますように。

「栄唱」


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